ザ・アルカイックスマイル

 ある日の事。
 いつも職場で集まったゴミを捨てに行ってくれるAさん。
 「いつもありがとう」と声をかけると、
 「この間、ゴミを片付けていたら床に50円が落ちていたんですよ!」
 「それはきっと頑張ってくれているAさんへのお駄賃だね」
 「私もそう思ってそのお金でコーヒーを買って飲みました!」

 

 その時、少し前の出来事が頭をよぎった。。。


 私は固く心に決めていた。
 次の休憩にはコーヒーを飲む、と。
 最近、50円でひきたてのコーヒーが飲める自販機が会社にも設置されていた。
 コーヒーをミルする際のコーヒー豆のいい香りと、入れたてのすっきり飲みやすいコーヒーが楽しめる。
 ただ、休憩所は混雑するし、この自販機はお金を入れてからコーヒーが出てくるまでに少し時間がかなる。
 なので私はあらかじめ席で財布から50円を出して、ポケットに入れておいた。(スマート&クレバー)
 あとはご想像の通り。
 自販機の前で颯爽と50円を出そうとした時、見つかったのはポケットの穴だけだった。

 

 我に返って、その50円、俺のじゃん、と思った。
 その時、ポケットの穴から50円が落ちた面白エピソードと、それがAさんが拾った50円につながっている事を話して場を盛り上げたい衝動に駆られた。
 しかし、拾った50円の所有者が私だと分かった時点で、返す、いらない、の面倒なやり取りに発展する懸念もなくはない。
 一瞬の判断の後、
 「それは間違いなく、あなたへのお駄賃ですよ」と菩薩の笑顔で答えたのだった。